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▶DOCUMENT

hanaso -ハナソ- vol.14
「アートのお仕事、これからの働き方を考える。」

日時:9月14日(日)19:00-20:30(交流会〜21:30)
会場:デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)1F KIITO CAFÉ
主催:神戸アートビレッジセンター(KAVC)
共催:デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)
協力:C.A.P.

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▶ゲストプロフィール 

雨森 信(Breaker Project ディレクター)

remo[NPO法人記録と表現とメディアのための組織]理事、大阪市立大学文学部特任講師、都市研究プラザ特別研究員。2003年より大阪市の文化事業として「Breaker Project」を企画・運営。「水都大阪2009」にて藤浩志のプロジェクト「かえるシステム」、BEPPU PROJECT2010にて美術部門のディレクターを務めるなど、様々な現場において既存の美術空間やシステムにはおさまりきらない独自の表現活動を開拓するアーティストとともに、地域に根ざしたプロジェクトに取り組み、実践を通して「芸術と社会の生きた関係」を探求する。

山本麻友美(京都芸術センター プログラム・ディレクター)

1999年から2003年まで京都芸術センターのアート・コーディネーターとして主に伝統芸能やアーティスト・イン・レジデンス事業などを担当し、その後フリーランスとして活動。2008年より京都芸術センターにシニア・アート・コーディネーターとして復帰、2011年より現職。京都芸術センターは、若いアーティストを支援し先鋭的な表現活動を積極的に創造すると同時に、コミュニティとの関係も深いアートセンターとして国内外から注目を浴びる。

吉澤弥生(共立女子大学文芸学部専任講師)

NPO法人地域文化に関する情報とプロジェクト[recip]代表理事/NPO法人アートNPOリンク理事。1972年生まれ。大阪大学大学院修了、博士(人間科学)。専門は芸術社会学。労働、政策、運動、地域の視座から現代芸術を研究。近著に論文「大阪の現代芸術事業の周辺で起きたこと」(『上方芸能』191号、2014)、単著『芸術は社会を変えるか? —文化生産の社会学からの接近』(青弓社、2011)、調査報告書『続々・若い芸術家たちの労働』(2014)など。

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▶ホストプロフィール

高橋怜子(C.A.P.事務局スタッフ)

1988年生まれ。2011年同志社女子大学学芸学部音楽学科音楽文化先攻卒業。その一方、大学在学中の2010〜13年まで、丸山正浩氏よりPA/ミキシング/レコーディング等を師事。C.A.P.とは大学の授業をきっかけに出会い、インド音楽コンサートやアートマーケット、アート林間学校などのイベントにボランティアスタッフとして参加。2013年6月より現職。C.A.P.で行われる様々な催しのコーディネート、広報、経理など多岐にわたる業務を行う。

松本ひとみ(デザイン・クリエイティブセンター神戸[KIITO]企画担当)

1986年熊本県生まれ。2011年大阪大学大学院文学研究科修了。2011年P3 art and environmentに入社、2012年よりKIITOのアート関連事業を担当。最近の企画事業に「セルフ・ビルド・ワークショップ 生意気とつくるKIITOの庭」、KIITOアーティスト・イン・レジデンス「濱口竜介『自分が誰なのか言ってごらん?』」、「西尾美也『ちびっこテーラープロジェクト』」、また編集に『神戸スタディーズ―時間と空間を横断しながら、足元を見つめる』などがある。

伊藤まゆみ(神戸アートビレッジセンター[KAVC]美術担当)

1979年生まれ。2005年関西学院大学大学院文学研究科(美学芸術学専攻)修了。2005年神戸アートビレッジセンター美術事業アシスタント。2006年より現職。センターの運営理念である「若手芸術家の育成」と「まちの活性化」をキーワードに、美術事業の企画、制作、プロデュースを担当。最近の主な企画に「hanaso -ハナソ-」、「若手芸術家・キュレーター支援企画1floor2014『またのぞき』」、「林勇気展『光の庭ともうひとつの家』」など。

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「hanaso」の14回目はデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO) へ会場を移した出張編。神戸でアートを扱う3つのスペース、C.A.P.、KIITO、KAVCの各現場で働く若手から中堅女性スタッフがホストとなり、アートの分野で活躍する先達をゲストに迎え、これまでの活動や経歴についてお話を伺いながら、会場の皆さんと共にアートの現場におけるこれからの働き方について考えました。
 ゲストはフリーランスのアートディレクターとして活躍する雨森信さん、アートセンターでのキャリアと子育てを両立されている山本麻友美さん、アートマネジメントの現場の労働環境に詳しい研究者の吉澤弥生さん。
 アートの現場でマネジメントやコーディネートの仕事を続けるためのキャリアプランの形成や、生活との両立についてなど、ホストからゲストへ気になる疑問を投げかけました。
 当日はアートの現場で働くことに興味のある方、それぞれのゲストやスペースの活動に関心のある方など、多くの皆さまにご来場頂きました。
 ホストが投げかけた3つの質問を軸に当日の様子をご紹介します。

「あなたにとって仕事とは?」

高橋 私はまだ、C.A.P.で働き始めて日が浅く、やっと自分の仕事が何に繋がっていくのか見えてきた気がしています。でもそうした日々を重ねていくことで、これからこの業界や自分自身がどうなっていくのだろうというところまでは全然考えが及ばなくて…。ゲストの方々はアートの現場の仕事をどのように考えていらっしゃいますか?

雨森 私が大学を卒業した時は、アートプロジェクトってほとんどなくて、美術の世界でお仕事といえば美術館かギャラリーしかないような状況でした。学生の時にアートが現実の社会との接点をほとんど持てていないことへの違和感を持ちはじめて、卒業後、設計事務所に勤めた後に美術の世界に戻るんですが、私がやりたいと思ったのは「アートと社会をつなぐ」ということです。そのためにどうすればいいのか?ということを考えながら活動し、自分で仕事を作ってきました。書くことで伝えることも一つの方法ですし、他の手段もあると思うんですが、私自身、言葉はそんなに得意じゃないところもあって、とにかく見せる場を作ろうということで展覧会を企画するところから始まりました。その後、ギャラリーで仕事をしていた時期もありますが、2001年以降は、NPO法人remoの立ち上げから関わって運営や企画に携わったり、ブレーカープロジェクトが始まったり、フリーランスの立場で自分がやりたいことをしながら収入を得てなんとか生きていけるようになったんですけど、毎年予算もどうなるか分からないという状況はずっと変わらず、よくこの話はしているんですけど、「来年こそはキャバクラか!?」って言う…(笑)。

会場 (笑)

雨森 プロジェクトを続けていく為にどういった手段があるのか、同時にプロジェクトの内容そのものをどう展開していくかといったことを常に探りながら、少し先をイメージしつつ、次の手を考え続けている。どこに行っても考えているので、仕事とプライベートの垣根はほとんどなくて、それはそれで問題かなと思う時もあります。

高橋 プロジェクトを運営していくこととは別に、アートを見せる仕事を今後も続けていく為に必要な制度を考えることも常に頭の中にあるということですか?

雨森 そうですね。継続出来るかどうかは、ずっと課題ですから。ただ、ずっと現場で仕事をしてきて、このままでは何も変えられないんじゃないかという危機感もあり、現在は大学にも所属して研究の場にも身を置いているという状況です。

山本 私はアーティストと近い場所にいると、今この時に出来るものが歴史に残るような作品になるかもしれないという可能性があるなと思っていて、死ぬまでに一つでも良いからそういう傑作に会いたいと思って仕事をしている気がします。それをするためには仕組みを整える仕事も付随しているという感じがします。仕事を続けるモチベーションとしては、単純に良い作品が観たいということだと思いますね。

吉澤 仕事とそれ以外の線引きは私も分からないです。問題ですね、これは(笑)。私は大学の時に就職活動が全く出来なかったんですよ。自分は企業社会では働けないのだと確信したわけです。そうするとだいぶ人生の選択肢が減るので、これはもう研究者として、このもやもやとした「社会」なるものを対象として生きていくしかない、と腹をくくったんですね、たしか。現代の芸術が専門なのも、もちろんそれに興味もあるし楽しいからなんですが、社会学者として芸術と社会とのつながりをいろいろな角度から考えてみたいという思いもあります。

仕事を続けていくための仕組み作り

松本 ゲストの皆さんは、これまでに生み出されたことが無いものやことを生み出す仕事をされています。私自身、作家や作品に出会ったことで自分の価値観ががらりと変えられることが何度もあったので例えば労働時間が長かったり、企画実現のために数えきれないほどの雑多な作業があっても、この仕事を楽しんでいますし、離れられないと思っています。皆さんのご経歴を見ていると、労働環境が定まりにくい中でご自身の経歴を積み上げてこられていることがまずすごい。一方で、業界全体でもっとこういう仕組みが出来たら良いのに、と思われることはありますか。また、なかなかノウハウが次の世代や他の組織に継承されていかないということもあるでしょう。残すこと、伝えていくことについても、「もっとこうしたらいいのに」というところをお聞きしたいと思います。

山本 今日のパネラーって、全員女性ですよね。実はアートの現場で働いている人って女性が多いんです。これってシステム的に問題があるのではないかと皆さんも感じてらっしゃるんじゃないかと思います。今回のトークのチラシ、私の紹介のところに結婚や出産のことが書いてあって、それで取り上げられているということは、このような例が少ないということです。この現場で働いている人って子供がいる人がすごく少ないです。それはつまり、不規則で長時間労働の現場で子育てすることが厳しいということで、低賃金だというのも正直ある。私の周りにも妙齢の可愛い女子が沢山いて(笑)、彼氏もいないとかで、「何で?」って思うことが本当にあって。これは業界として完全に病んでるなと思っています。私自身は仕事と子育ての両立が出来ているわけではないですけど、まがりなりにもなんとかなっている人がいることを知ってもらうのはすごく重要だと思っていて、もっとそういう例が増えればいいと思います。でもシステムが整わないと難しいのかなとは思いますね。

松本 具体的にはどうしていけばいいでしょうか?

山本 言い続けるしか無いかなと思います。芸術センターの場合はアート・コーディネーターは3年の契約だったんですけど、途中で妊娠した子がいた時に産休の制度が出来ました。改善しなければならない状況があって、どうしてほしいかを言い続けて、どうやったらそれが可能かをみんなで考えていけばそういうことも出来るのかなと思います。

吉澤 私が過去3冊の『若い芸術家たちの労働』でインタビューをした人の中には、自分から契約時に産休・育休の仕組みを作って欲しいと働きかけて、雇用主も同意したという例がありました。山本さんもおっしゃいましたけれども、言い続けることが大事だと思います。でも、そもそもこの業界は何故こんなに現場スタッフに女性が多いのでしょう?

雨森 やりたいと思っていても男性だと変なプレッシャーがあったり、背負っているものが女性とは違うのかな、と思います。若い男性でこういう仕事がしたいと思っていても、やっぱりNPOやプロジェクトベースでの雇用では収入は不安定になりますし、なかなか厳しいのではないでしょうか。

伊藤 女性の方がアートの仕事に向いているということは、ありますか?

雨森 あくまで私の印象ですけど、マネジメントという意味では女性の方が向いているかなと思います。産休・育休の話でいくと、ブレーカープロジェクトでは、私がそれを要求される方の立場にあるわけですが、毎年助成金を申請して運営しているので、産休・育休の間もお給料を支払うというのは現実的には難しい。業界全体で制度を作っていかないといけないだろうとは考えてはいますけど…。まずはフリーランスで仕事をする人の労働に関する制度が必要ですよね。もう一つは、社会の中でもっとアートが必要だという意識を広めるということ。その認識がボトムアップ的に出てくれば行政にしても、こういったアートの仕事における不安定な労働環境を整備せざるを得ないということになるのかなと。

アートマネージャーのセカンドキャリアとは

伊藤 私は松本さんと高橋さんより年上の中堅の世代で今勤めている施設も10年目に入るところですが、一通りいろんな経験をさせてもらって、次のキャリアについて考えているところです。今いる職場はフラットな組織なので、組織内でキャリアアップを望むのは難しい状況です。でもこの業界の仕事を長く続けていきたいと思っています。ゲストの皆さんはフリーランスの時期もありながら、組織に所属して働いていらっしゃったりする時期もあると思うのですが、フリーランスの良さと組織で働く魅力の双方について教えていただけたらと思うのですが、いかがでしょうか。

山本 フリーで働くことは私にとってはすごく良い経験になりました。行政の施設で働くのと全然違うし、自分の経験の中では必要だなと思いました。でも芸術センターに戻ろうと思ったのは、もちろん固定給があるというのはあるんですけど、システムを変えていこうと思うと、大きな所を動かさないといけないということを常々感じていて、ある程度自分でキャリアを作らないと決められないというか、動かせないことが増えてきたということがあります。あと、単純に自分がしたいことをしようとすると、何かが足りないと気がついて、ポストを作ってもらうに至ったんですが…。伊藤さんは自分の組織の中でそれは出来ないですか?

伊藤 …それは出来ないと思います。うちは事業担当者の上に事業課長がいたりはせず、すぐ上のポジションが副館長、館長になります。美術以外の他事業に関しても同様で、私だけ特別にポストを作ってもらうのは、難しいと思います。

山本 芸術センターは開館してから徐々に組織とシステムを変えています。例えば、アート・コーディネーターの上に、途中からシニア・コーディネーター、プログラム・ディレクターという役職ができました。アート・コーディネーターが、現場で相談できる人がいない、さらにその先に進む道がないということが現実問題としてあったので、新しいポストを作ったんです。10年以上働いて行政の仕組みややり方がどうやったら変わるのかようやく分かってきました。だから伊藤さんそろそろ分かるかも(笑)。

伊藤 …(笑)。KAVCは行政ではなく、指定管理者として企業が運営している点が芸術センターさんと大きく違う点だと思います。会社自体も指定管理期間の4年という一つのサイクルがあり、必ず次期指定管理がとれるか分かりませんし、10年もスタッフを雇用することを想定していないと思います。1年契約で更新していくという雇用条件ですし、人材を入れ替えて組織を活性化したいという思いもあるだろうと思います。私自身、入社時に上司から「5年くらいKAVCで経験を積んで羽ばたいていけるよう頑張ってね」と応援してもらいました。難しい問題ですね(笑)。また、長く働く中で、新たな目標や挑戦がないと続ける意義が無いと思っています。皆さんはどのように目標設定して継続性を保っていかれたのでしょうか?

雨森 これは性格かもしれませんけど、プロジェクトを継続していくなかで、ルーティンになりそうになったら、自分自身にとっても新たな挑戦となるように、ちょっとずつハードルを上げる、ということをしていると思います。現場では常に課題は出てきますし、アーティストや地域の人との出会いから次へのアイデアも湧いてきますし、そういったことが次につながるモチベーションになっていくという感じでしょうか。私自身がドキドキ出来るようなことを追い求めると同時に、それを実現させるための環境もつくっていかなければいけない。考えることもやるべきことも山積みなので、やってもやっても終わらない。ということも、継続していくエネルギーになっているのかもしれません(笑)

吉澤 私は基本的に細かなことはノープランで生きてきたのですが(笑)、大学に職を得ようと努力はしていた気がします。インタビュー集を制作する過程でいろいろな方のお話を聞くと、伊藤さんのように「ここでここまでやってきたけどこの先が無い」と悩んでいるという方も、次の職場では前職より待遇が悪くなったという方もいました。そして1人で抱えている方が多い。私がインタビューをしても「こんな愚痴聞いてどうするんですか?」とおっしゃるんです。「これは社会的な問題だと私は信じているので是非お話を聞かせて下さい」と言うとお話して下さるんですけど。それから、結婚、出産のこともそうですが、出来たばかりの領域でキャリアアップというイメージがなかなか描けないというのは、アートに限らず他の業界でもあると思うんですね。アートという場に特殊な問題と、社会全体の就労の現場に共通する問題とを分けて考えるのも大事なんじゃないかなと思います。そうしないと、何でもかんでも「アートだからこうなっちゃうんだ」となってしまう。ともあれ、まずは、抱え込まずに相談してみたりとか、仲間を作ってみたりとか。今、セーフティーネットのようなネットワークが、導火線にいくつか火をつけたらパッと全国に広がるくらい、潜在的に広がっているんじゃないでしょうか。あちこちで労働のことを話す機会が増えてきているので、そこは個人的な問題とせずに公にしていっていいと思います。

松本 さっき山本さんのお話を聞いていて、「無ければ作ったら良い」という意識はとても大切だと思いました。例えばKIITOも市の施設ではありますが、組織としては20人くらいの小規模で、その中で現場にいる人間と方針を決める人間がとても近い状況にあって、現場のアイデアを施設全体の方針に反映できることも多いので、意識的に良い状況になるように取り組んで行きたいと思いました。神戸市の事業として様々な企画を行いながらアーティストの表現としても意味があるように、両軸を成り立たせるように意識しているんですが、地域においてもそういったプロジェクトも増えてきていると思うので、業界全体で、もっとキャリアや雇用のことが話される場が増えればいいなと思います。

伊藤 吉澤さんの本『若い芸術家たちの労働』にはアート業界で働く様々な方のケースが載っているんですけど、もう三巻目まで出ているんですよね。私が学生の頃にはアート関係の仕事に関する情報があまりなくて、東京のギャラリストの方に「アート関係の仕事就くにはどうしたらいいですかね?」って相談したら、「そんなの公立の美術館学芸員にでもならなかったら30歳超えても手取りで15万くらいだよ〜」って夢の無い回答を言われて衝撃を受けた経験があります。でもそういう情報すら当時は無くて、働いてみて本当に厳しい世界だなと感じています。自分の周りにいる同世代の同業者とはそういう話をしたりする機会もあるので「頑張らなくちゃ!」としか思わなかったんですけど、それが全国的な問題だとしたら制度を長期的にでも変えていくことを提言しながら、平行して自分達の目の前の仕事をしっかりとやっていくことが重要なのかなと思いました。

山本 雇用の問題というと、お金の問題に直結すると思うんですよ。お金がどこから流れているかを意識的に見た方がいいんじゃないかなと思います。これからオリンピックに向けて大きなお金が動いてどこの文化施設、行政の施設でも事業は増えてくるんじゃないかなと思います。これをどう上手く活用することが出来るかがここからの勝負だと思うので、普通に給料がもらえるかどうかと言うことだけじゃなくて、さらに事業をするためのお金はどこから来ているのかを現場で働いている私達も意識的になる必要があると思いました。

雨森 フリーランスだとまた変わってくると思うんですよね。例えば、私の立場だとそれを言っていく上司や組織があるわけではないので、自分で作っていかなくちゃいけないという状況なわけです。美術館などの制度とはちがって、こういったオルタナティブなアートの業界は労働環境としてまだ整備されていないという状況のなかで、雇用の問題や賃金のことばかりを要求するだけっていうのもどうなのかなと…。まだまだ発展途上の領域なので、いっしょに自分たちの仕事やその環境をつくっていくぞっていう意識を持っている人たちが増えないと、何も変わらないのではないかと思います。

吉澤 この先2020年の東京オリンピックに向けて文化予算も現場も増えると思うんです。そうなると働く人も増えるはずですが、雇用、事業委託、委託でも会社でとるのか個人でとるのか、とにかく働き方は多様なものになると思います。だからそれぞれの立場で目の前の問題と向き合い、他者と相談、交渉しながら、前に進むしかないですね。そうしないとオリンピックが終わった段階で、大量の失業者が、いや、失業者ですらない「無業者」が生まれる。失業するにも雇用保険に入っていないと失業手当が出ないですから。その辺のこともちゃんと考えて事前にいろいろ動いた方がいいと思います。

雨森 アート業界だけじゃないですよね。そこでどう踏ん張れるかということだと思うんですけど。例えばこういう話す場があって、情報を共有することで、対策を立てられるかもしれません。文化施設にしろ、フリーランスの仕事にしろ、予算がある時は仕事があって人がいるけど予算が無かったら人が雇えない。それは、はっきりしているわけです。

インターン/ボランティア制度について

質問者A 私は若者の就労支援をする所で働いていまして、私達のところに相談に来るのは若い子が多くて、例えば芸術大学を卒業したり、大学で学んでいる子達が「働く」ことにイメージが持てずに悩んでいる方がすごくいます。アートの世界で働くことは、例えば家を作るなら「大工」、みたいに分かりやすくイメージが出来ないところがあると思います。そんな時に大学教育の中で変わらなきゃいけないところ、若者が仕事に就く上で必要なものや制度など、何かアイデアがあればお聞きしたいと思いました。

雨森 最近は様々なプロジェクトやNPO、美術館、ギャラリーでインターンやボランティアの受け入れ制度もあって、20年前とは違って本当に興味があればいくらでも現場を経験できる機会があるように思います。大学教育でいうと、芸大や美大を卒業しても、全ての人がアーティストになれるわけではないですし、アーティストになったとしても社会に出てどうやって生計をたてるかということを大学でももう少し学べれば良いのかなと思うことはありますが。

山本 インターンは有効かなと最近感じていて、この3年くらい採用して、アート・コーディネーターと同じ仕事をしてもらっています。学生の場合は社会との接点があまりなくて具体的に仕事内容を想像しにくいのが問題だと思うので、そういうところをインターン以外の制度でも何か考えられたら面白いかなと思います。

雨森 でも実際の現場は、いばらの道ってこともあるので、一概に勧められないなとも思いますけど(笑)。本当にやりたい人が自分で見つけていく職場じゃないかなと思いますね。

吉澤 芸術系大学の非常勤で社会学を教えていたとき、大学時代はアートの現場があるので実習やインターンで経験を積んだけれど、就職先としてほとんどポストは無いから、卒業後は一般企業に就職するという学生が多くいました。学校教育と就労現場との橋渡しがシステム的にうまくいっていないというのは、日本では芸術系大学に限った話ではありませんが。

日本と海外のアートの現場の違い

質問者B 日本と海外のアートの現場の違いについてお伺いしたいのと、アートに関わるお仕事を通じて、世界に向けてどのようなことを発信していきたいのかをお聞きしたいです。

山本 今ドイツとフランスのプロジェクトをやっていて、向こうのアートセンターの方とやり取りしているんですが、意識的にはあまり大きな違いは感じませんでした。ただ、彼らは夏にバカンスを必ず取りますね(笑)。今やっているプロジェクトに関わる学生達の世話は本当に大変で毎日何が起こるか分からなくて、朝から晩までという感じなので、日本も海外の現場も一緒なのかなという印象を受けました。

雨森 私が行っていたオランダではアート業界に限らず、フリーランスと正規職員との差がそんなに無くて、オランダ特有なのかもしれないですけど、フリーランスの人が生きていきやすい環境だなと感じました。なのでオランダに居続けた方が楽しいかもしれないなとは思いますけれども…(笑)。

吉澤 お二人の話と繋がるんですが、過去3冊インタビュー集を作る中で、ロンドンとパリのアーティストやアートマネージャーにも話を聞いています。結論から言うと、日本との社会制度の違いに打ちのめされるわけですね。フランスだと、舞台や映像制作者の労働組合があり、雇用保険があるので失業手当が出るんです。イギリスでは、職種に応じた雇用保障というよりそもそもの社会保障が手厚い。これはフランスも同様です。「僕は生活保護を貰いながら活動を続けている」と言う作家もいたりするんですね。日本だとそれはほとんど想像できないので、そういう社会保障の違いはあると思います。

伊藤 最後のご質問の「世界に向けて」というのはいかがでしょうか。

山本 昔先輩から「良いプロデューサーは、自分が良いと思っているものをどれだけ人に伝えることが出来るかだ」と言われたことがあって確かにそうかなと。芸術の価値観がそれぞれ違う中で絶対的なものは無いと思っていて、日本のためにということよりは個人的なことかなと思っています。それをどれだけ世の中とシェアできるかかと思います。

雨森 欧米の目線で日本のアーティストを評価したり、紹介するのではなくて、日本で活動するアーティストが、どういう歴史的政治的背景のなかで、その表現に至っているのか、その原点も含めてちゃんと伝えるようなことをしていければと思っています。

吉澤 今、日本では「表現の自由」が非常に脅かされています。その中で、世界に対して、日本のアートはそんな圧力には屈しないよ、とさまざまな方法で発信してほしいです。大きくて遠い話ですけど、そういう役割をアートが担うと良いなと思います。

トークを終えて 〜企画者より〜

当日は60名を超えるお客様にご来場いただき、主催者としてその反響の大きさに驚きました。「これからの働き方を考える。」というテーマに多く方の共感を得たのかなと思います。トーク終了後、こういったトークを続けて欲しいという声を多数頂くことが出来ました。また、事後に頂いた感想やアンケートでは、「やりたい仕事が出来るだけ恵まれているのでは?」「登壇者が全員女性なのが気になる」「神戸はアートマネジメントが職業として成立している。(もっと厳しい地域があるからまだ恵まれている)」など、様々なご批判とご指摘を頂き、真摯に受けとめている次第です。今回のゲストとホストのお話から、私自身、アートやアーティストとの仕事に魅力を感じ、離れ難くなっているのだなと改めて認識し初心に返ることも出来ました。また、今回のようなCAP、KIITO、KAVCのスタッフが企画の現場を共にすることも、新しい刺激を頂く機会になりました。このような機会を通して、ボトムアップ的に芸術文化に関わる環境の整備に貢献していけたらと考えています。(伊藤)

KAVC、C.A.P.、KIITO。神戸市下の文化施設/活動主体である三者で協働の可能性を探るため、何度も集ってミーティングをしてきました。その中で、今回のホスト三人に共通することとして、仕事と生活の両立や、キャリアアップについての問題意識が話題にのぼり、今回のトピックが導かれました。特に関西特有の状況に目を向けられないかと考え、関西の状況をよく知り、切り拓いてこられたゲストを迎えました。アートや表現における問題意識や、これは絶対面白い!と思うことを、いかに社会に伝え、投げかけていけるのか。そのような取り組みをいかに持続していけるのか。悩み多くも、どうしようもなくワクワクすることに次々と出会ってしまう、この「アートのお仕事」…私たちが取り組めることはまだまだ無限大ですね!三者によるコラボレーションを今後も続けて、神戸の地に還元できることを探っていきたいです。(松本)

今回の登壇者は、アートのお仕事とはいえとりまく環境が異なります。ホスト側のお二方とは日頃から仕事に関する情報交換などを行うことはありますが、自分たち自身の話をすることはほとんどなかったので、そういった話ができたことがとてもよい刺激になりました。ホスト側から投げかけた質問はアートの現場だけに収まる問題ではなく、地域や社会全体とも深く関わりのあることです。私自身、日々の仕事で自分のことは後回しになりがちですが、時には立ち止まって自分をとりまく状況に目を向けてみることも大切なのだなと気づきました。そしてそれらを発信していくことで新しい制度や環境づくりにつなげていくことは、携わる者の責務でもあると同時にとてもクリエイティブなこと・・・ワクワクすることだと前向きに捉えています。一朝一夕に成果があらわれるものありませんが、長い時間をかけてアートや文化と同じように生み育てていければと思っています。(高橋)