公演レビュー

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《神戸の視点》実践! 演劇プロデューサーへの道 プロデュース
『地中』
2012年3月9日(金)〜11日(日)
KAVCホール

スクリーンショット7696.png営みの愛しさを知る4つの物語」
吉永 美和子(よしなが みわこ/ライター

神戸アートビレッジセンターが主催する、演劇プロデューサー育成講座の実践編となる公演。神戸に縁のある作家と演出家を招いた舞台は、まさに今の神戸だからこそ発信できたと思える、不思議な普遍性を持つ世界だった。
 舞台は海に近い、ある更地。今現在この地に家を建てようとしている夫婦、その地下で食卓を囲む死者の家族たち、昔ここで敵味方として戦った兵隊アリ。そして遠い未来に、この地に建てられた図書館で本の山に埋もれた少年と少女の、4つの異なる時間軸の物語が展開される。これらの話はほぼリンクすることはないが、1つのエピソードが語られる間、その他のエピソードの人物たちは、ト書き風のナレーションや、効果音や呼吸音などを加えることで舞台に参加。各エピソードに直接的なつながりはなくても、他の物語に少しずつ影響を与え合っていることを暗示する。
 それぞれの話で語られるのは、人が出会い、生み、育み、そして死ぬという、ごくシンプルな営みにまつわることだけだ。当事者にとっては重大な出来事でも、長い歴史の中では、ほんの数年で埋もれていく営みの断片。でも、そんな地中に埋もれた「小さな大事」の数々も、いつか何かの拍子に地表に現れ──たとえば劇中で語られる、地中で見つかった少年と少女の死体のように──その時代を生きる人たちに何らかの波紋と感銘、あるいは生き方を変えさせるほどの力を与えるかもしれないのだ。それこそ、これを観ている人々が、今生きてやがて死んでいく人生でさえも。
 それは今さら言うのも恥ずかしいぐらいに当たり前な真実だけど、そんな“普通の営み”を一度は崩された経験を持つ神戸の表現者たちが創り上げたモノだからこそ、地中に水が染みこんでいくように、自然に、素直に伝えられたのかもしれない。この舞台を企画したプロデューサー予備軍たちが、この経験を元に、いつかまた新しい「神戸の声」を届けてくれることに期待が持てる公演だった。

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「あした[À demain]」
2011年10月28日(金)〜30日(日)
KAVCホール

_MG_3948.JPG撮影:清水俊洋“あした”へのダンス
菘あつこ(すずな あつこ)

青海波──ホールに入ると舞台上のスクリーン一面に、半円形を重ねた鱗のような、波のような青海波模様が映し出されている。海を日本の美意識で表した模様を見ながら、少し、恐ろしい津波のことが私の頭をよぎる。やがて、模様は美しい脚の形に、ダンサーの身体の形へと切り取られていく。この映像の作者はフランソワ・シャレ。
 そして、今回の作品全体の演出・振付はトーマス・デュシャトレ、ピナ・バウシュが率いたウッバタル舞踊団で活躍後、フランスに戻り自らのカンパニーを率いる振付家だ。計画進行中の3月、東日本大震災を知った彼は、気持ちを新たに特別な想いで作品に取り組むことを決意したそう。同じくピナの元で活躍した市田京美のワークショップで選ばれた日本人ダンサー5人と、フランス人ダンサー5人がともに、約1ヶ月の滞在で創り上げたのがこの作品。
 青海波の他に、太鼓の音や格闘技など日本の伝統的なものから、女の子が何故かロシア語で数を数えながら、可愛くセクシーなポーズをとったり、ポップな顔の映像がスクリーンに広がったりと、今の日本のサブカルチャーを思わせるものまでがコラージュのように組み合わされた構成で自然に引き込まれた。加えて10人の出演者たちは、個性的でそれぞれの魅力を表現できるダンサー達。動きそのものにも惹きつけられた。
 “あした”を確かに迎えられそうな、そんな気持ちにしてくれる舞台だった。

菘あつこ(すずな あつこ)
舞踊ジャーナリスト。バレエ・ダンス等舞台に関する記事を朝日新聞、神戸新聞、各専門誌等に執筆。実はテント芝居等アングラ系も好き。

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GO! GO! High School Project 2011「BOAT〜シーラカンス号漂流記〜」
2011年8月20日(土)・21日(日)
KAVCホール

DSC_3005.JPGこの夏、“奇跡のボート”が帰って来た! 
大塚雅史(DASH COMPANY)

大好きな夏の4週間を、高校生の楽しい思い出作りに捧げてたまるか。演劇の真の魅力を感じてもらおう。その思いで、過去に書いた作品中より、あえて「ボート」を選ぶ。この完成には強固なチームワークが必要。寄せ集め集団にとっては困難な課題と言えた。さぁ、強いチームを作らねば。仲良くさせるより競わせる。協力と競争。その両立こそが揺るぎない結束を生む。高校時代、ラグビー部でそう学んだ。それを信じて、徹底的に彼らのライバル心をくすぐる。お互いの差が出来上がる。挫けそうな奴が生まれる。でも、きっと誰かがそいつを励ましてくれる。追い越せ!引っ張れ!期待通り、彼らの作る“ボート”は、次第に加速して行った。そして・・・。僕の好きだった物語が、目の前にあった。苦難を乗り越えた彼らの流す汗と涙は、正真正銘の本物。彼らのリアルな魂の叫びが、観客の心を揺さぶる。こんな瞬間が観たいから演劇を続けている。もう次の夏が待ち遠しい。

大塚雅史(おおつか・まさし)
脚本家・演出家・照明家。1966年生まれ。京都府出身。大阪市在住。関西大学演劇研究部『学園座』を経て、1990年に劇団『ランニングシアターダッシュ』を旗揚げ。主にスポーツを題材に、「熱くて泣ける青春エンターテイメント」と呼ばれたエネルギッシュで疾走感溢れる作品を次々と発表した。2005年、解散。現在、フリーの演劇作家としてソロ活動中。市民ミュージカルの演出やアクターズ・ワークショップなど、活動の場を更に広げている。また、その独創的ライティングで、関西屈指の照明デザイナーと呼び声も高い。